愛海(まなみ)、俺と結婚しよう」

 大学の卒業式が終わり窮屈な袴を脱ぎ捨て解放感たっぷりだった私は、卒業祝いをしようと飲みに来ていた居酒屋の店先で、プロポーズをされていた。

 プロポーズをしている男性は、一緒に飲みに来ていた友達。彼氏じゃなくて友達。

 彼の名は龍二(りゅうじ)

 何度でも言う。彼氏ではなく私の友達だ。

 龍二との出会いは7年前の高校まで遡る‥‥‥‥





 私、東海林愛海(しょうじまなみ)渋谷龍二(しぶたにりゅうじ)は高校で初めて会った。

 入学式の日、出席番号順で前の席にいたのが龍二だった。背が高く痩せ形で色黒。少しきつめの印象を受ける目は大きいが気だるげで、薄い唇が妙にエロい。長めのウェーブがかった黒髪はボサついていて、その顔を隠そうとしているようにも思える。簡単に言ってしまえば、彼はかなりのイケメンだ。

 少し不機嫌そうにも見える雰囲気だが、せっかくこんなイケメンと席が前後になったんだから、話しかけないのはもったいない。

「初めまして!私は愛海、東海林愛海。愛海って呼んでね!」

 入学式の変なテンションで、昔テレビで見たお笑い芸人の『かっこいい自己紹介』を全力のイケメン顔で披露した。

「‥‥‥‥‥‥‥‥渋谷です。よろしく」

 どうやら私はしくじったらしい。沈黙が長過ぎてつらい。突っ込めとまでは言わないが、せめてクスッとしてくれてもいいじゃないか。

 龍二の第一印象が『イケメン!』からの『これだからイケメンは‥‥』に決定した瞬間だ。

 龍二のせいで『かっこいい自己紹介』は封印されたが、その後何人かとお近づきになり、高校生活は順調な滑り出しとなった。

 感じが悪過ぎる龍二は、初めの頃は女子達に『イケメン!』と騒がれていたが、感じが悪過ぎるので『これだからイケメンは‥‥』と距離を置かれた。感じが悪過ぎるからしょうがない。

 ところがある日、龍二の方から私に声をかけてくるというイベントが発生した。

「‥‥‥‥愛海」

 いきなりの呼び捨て!?‥‥いや、そう呼べと言ったのは私だった。

 龍二とは席が近いから毎日挨拶くらいはしてたけど、いつも不機嫌そうな顔をして話しかけるなオーラを放出してるから、会話をしたことは一度もない。

「‥‥‥‥ん?呼んだ?」

 平静を装って返事をしたけど、いつにも増して不機嫌そうだ。睨まれてる気がしなくもなくて、緊張が走る。私、なんかまずいことでもしちゃったのか?