幸先輩が甘く迫ってくるのですが。


初めて上級生のフロアに踏み入り、階段ですれ違う人たちがみんな先輩なんだと思うと、僅かな緊張が走る。



リボンの色が違うってだけで歳もひとつしか違わないのに、なんでこんなに大人びて見えるんだろうといつも不思議に思う。



逆に先輩たちは1年生の私がいてもチラッと見るだけで、特に気にしていない様子。



あまり珍しいことじゃないんだろうなと思いつつ進んでいくと、幸先輩の教室周辺だけほとんど人がいないことに気がついた。



ざわついた空気も話し声もせず、静寂だけがそこにある。



もしかして、もう誰もいないのかな?でも、そんなことある…?



びっくりして思わず足を止めてしまったけれど、それはそれで好都合なのかもしれない。



私が幸先輩の近くにいても、女の先輩に目をつけられることもなさそうだしね。



そう思ってどんどん歩みを進めると、ついに目的地に辿りついた。



ふぅ、とひとつ深呼吸。



心の準備をしてから、教室の中を覗いた。



幸先輩以外は誰もいなくて、ガランとしている。



だけど、それよりも気になったのは…



「…寝てる?」



呼び出した本人であるはずの幸先輩が、机に突っ伏してすぅすぅ寝息を立てているということ。