「神崎さん」
いつも通り優しい声色でそう言葉を紡ぎながら、彼女の方へ振り向く。
「山下さんどうしたんだろうねえ?」
俺と目が合うやいなや、彼女はすっとぼけたようにそう言葉を放った。
「神崎さんは僕のこと、どう思ってるんですか」
笑顔の面は外さない。心は読ませない。
「どうって…仲良くなりたいなって思ってる、よ?」
ジリジリと距離をつめ、神崎さんを壁の方へと寄せた。
「い、一之瀬くん?」
神崎さんの余裕そうな笑みが崩れ始め、焦りの色が見え始める。山下さんと何があったのかを聞かれる事を恐れているのだろう。俺の考えは的中していたってわけだ。やっぱり山下さんは俺のせいで泣いたんだ。
「神崎さん、僕も仲良くしたいです。…会社の先輩後輩として。」
神崎さんから視線をそらさず、俺はそう言っていつものようににこりと微笑んだ。
「う、うんうん!ありがとう」
「じゃあ朝礼行きましょうか」
俺は誰かを特別に思ってはいけない。一線引くのは忘れたらだめだ。誰にでも優しく、にこにこして。
山下さんのことは別に好きとかじゃない。ただ、放っておけなかっただけだ。
あの日、初めて山下さんと会った日。人目につかないように独りで泣こうとしていた彼女が、俺の姿と被って見えたあの日。泣く資格なんかないと分かっていたから、俺もいつも独りで泣いていた。でもそれは本当は苦しくて、辛くて。だから山下さんのそばにいてあげたいと勝手に思っただけ。
繊細で、人のために嘘をついて傷つきに行こうとするような人だから、放っておいたらボロボロになってしまいそうで気になっただけだ。
____引き返そう、今ならまだ止められる。
【一之瀬 誠side END】
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