優しい愛で溶かされて


辛い時、今までよくこうしてたな。
学生時代、学校でも机に顔伏せて過ごしてたこと、あったな。あの時は、楽しい大人像を夢見て妄想してやり過ごしてたけど、実際これだもんな。あの時の私が今の私をみたら心底嫌がるだろうな。


体調不良だなんて嘘ついてサボるなんて、いい年した社会人がしちゃいけない事だ。会社で泣くことだって、痛々しい事だ。情けない。


「はあ」


つこうとしていなくても漏れる溜息。
そういえば誰かが言ってたっけ。ため息は幸せが逃げるから、もししちゃったらすぐ息を吸い直さないといけないよ〜とかなんとか。


仕事には関係ないことに思いをふけていれば、徐々に気持ちが落ち着いてきた。春の暖かい陽気が体を照らして、それも心地よく感じられる。


「そろそろ戻らないと。OJTがいないなんて一之瀬さんに申し訳ない」


気まずいけれど仕方がない。私は足に踏んばりをきかせ、なんとか立ち上がった。まるで鉛を付けられたように重たい足を、私はなんとか持ち上げオフィスへと向かったのだった。


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【一之瀬 誠side】


俺のところから走り去る山下さんの後ろ姿を見て、色々と悟った。

後ろに立つ神崎さんを一瞥すると、案の定バツの悪そうな顔をしていた。


____やっぱりか。


思わずため息を漏らしそうになって堪えた。
山下さんはきっと神崎さんになにか酷い事でも言われたのだろう。


…昔からそうだった。俺が誰か特定の人を気にかけたり、優しくしたりすると、必ずその相手は辛い思いをする。


有難いことに、なぜか俺はガキの頃から人から好意を寄せられる事が多かった。
だけどその分、周りからの視線もきつかった。俺の行動は手とり足とり監視されているようにすら思えるほど。


俺が好きだと言って付き合った女子は、付き合った瞬間からいつも辛そうにしていたし、結局、振られた。

ある時には、たまたま困っていたところを助けただけなのに、その相手は数日後学校に来なくなった。

この時の俺は能天気で〝モテて嬉しい〟〝人のためになれて嬉しい〟くらいにしか思っていなかった。

だけど、〝〇〇ちゃんが一之瀬くんとなんて身の程知らずだよね。いじめられて当然〟そんな話が耳に入ってきた矢先、俺のせいだったのだと気づいたのだ。遅すぎる気づきだった。


俺が関わった人間は必ず辛い思いをする。だから俺は、誰かを気にかけたり、特別に思うことが怖くなった。

皆に優しく、ニコニコしていること。特別な相手なんかは絶対作ってはいけない。そう思うようにしてきた。


それなのに俺は、また俺のせいで辛い思いをする人を作ってしまった。