連れられてきたのは、廊下の突き当たりに位置する誰も使っていないであろう狭い休憩室。オフィスと同じフロアにこんな所があったなんて、そもそも知らなかった。少し薄暗く、掃除も手抜きにされているのだろうか、埃っぽい。
「勘違いしないでくださいね?」
間抜けにも辺りをじろじろと観察していたさなか、聞いた事もないような神崎さんの低い声が私の肩を震わせた。
「一之瀬くんや赤井主任がなんで山下さん〝なんか〟に優しくするのか分かりますか?山下さんがこの会社であまりにも浮いているからですよ。つまり同情です」
私の嫌な予感はよく的中する。外れない。今回もだ。身体の横でグーにした手を強く握りしめる。言葉を出そうにも喉が震えて、黙りこくる事しかできない。
「山下さ〜ん。仕事も、見た目も、性格も、全部私より劣ってるのに勘違いしないでくださいね?一之瀬くん達の身になって、よーく考えて行動してください。私、ちゃんと見てますからね、山下さんのこと。」
とてつもなく鋭い刃で、直接心臓を刺されているような、そんな感覚。悪意の塊のような言葉を急に悪びれもなく吐き散らかされて、処理が追いつかない。もちろん声も出ない。
神崎さんはそんな私には目もくれず、にこりと柔らかい微笑みを浮かべると、薄く上品な唇を私の耳元へ近づけた。
「この身の程知らずが」
「…っ、」
ヒールのコツコツとなる音が私から遠ざかっていく。神崎さんがオフィスに戻っていくのがその音から背中越しにわかる。だけど、彼女の甘い香水の匂いは狭い休憩室にまだ残っていて、それが私に記憶をフィードバックさせる。



