私がそう言うと、赤井主任は満足そうに微笑んだ後、偶然近くにきたタクシーを捕まえて、私を半ば強引に車内へと押し込んだ。
「俺は電車で帰るから。これでタクシーで帰って。」
無理やり私の手にお金を握らせると、遠慮する間もなく赤井主任はタクシーのドアを閉めた。
ひらひらと外で手を振る赤井主任に深々と頭を下げると、私は一人暮らしのマンションまでタクシーに揺られたのだった。
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翌朝。案の定、頭がギンギンと痛い。顔も少し浮腫んでいる。
「はあ」
昨日は散々迷惑をかけてしまった。
赤井主任、風邪とか引いてなければいいけど。
会社の歓迎会を酔い潰れて出てきてしまったこともあって、会社の人と顔を合わせるのがとてつもなく億劫。いつもよりも足取りが重たい。
緊張しながらオフィスに足を入れると、普段と変わらない様子なのを見て少し胸を撫で下ろす。
自分のデスクへ向かい、パソコンを立ち上げ、とりあえず打刻する。隣のデスクを一瞥し、一之瀬さんがまだ会社に着いていないのだと悟る。とりあえず、一之瀬さんと赤井主任にはしっかりお礼をしないと…。
そう思いながら、まだ少し定時より早いが会社の共有ファイルを開こうとマウスを動かした時だった。
「おはようございます、山下さん」
背後から甘い香りと同時に降ってきた可愛らしい声に徐に振り向く。
「か、神崎さん…?おはよう、ございます。ど、どうかされましたか?」
神崎さんから仕事時間以外で話しかけられたのは初めてで、ついしどろもどろな感じになってしまう。
「ちょっと今からお時間いいですか?」
顔はいつもみたいにニコニコしてる。だけどなんだろう、この違和感。目が笑っていないというか、怒っているというか。
「はい、」
断れる雰囲気なんて更々なくて、嫌な予感を過ぎらせつつも席を立ち、前を歩く神崎さんの後ろをとぼとぼとついて歩いた。



