「会社でも泣くなんて…しかも朝から…」
トイレでひとしきり泣いたせいで目は充血し、朝の朝礼にも間に合わなかった。
課長の話では、今日から新人が入ってくるとの事だったから結構重要な回だったはず。しかもOJTだとかなんだとか…。急いで戻らなくては。
駆け足でオフィスへと戻ると、私の隣のデスクに背の高い男性の後ろ姿が見えた。
あの子が、新人の子か…。不安にさせない為にも、できる限り明るく接さないと。
握りしめた拳にぎゅっと力をこめ、なんとか気持ちを入れ替える。
「今日から一緒に働かれる方でしょうか?」
後ろから明るく繕った声でそう言葉を投げかけると、彼はゆっくりとこちらへ振り向いた。
「…あ、」
ぶつかりあった視線の持ち主の顔を見て、思わず声が漏れた。それもそのはず。だってそこにいたのは昨日助けてくれた仏のような彼だったから。
「おはようございます。お世話になります。一之瀬です。よろしくお願いします。」
これは、私だと気づいている…のか…?
目を合わせていられなくて、思わず床に視線を投げる。
「えっと、…山下、です。よろしくお願いいたします」
なんだかぎこちない感じになってしまった。あんな情けない姿を見せてしまった手前、勝手に気まずさでいっぱいになっていたけれど、一之瀬さんの様子は見た感じ普通だし、もしかしたら昨日の女だとわかっていない?
たしかに昨日は夜も遅くて暗かったしなぁ。安心したような何故か残念なような、変な気持ちだ。
地面に落としていた視線を背の高い一之瀬さんの顔まで滑らせると、何とも言えない表情を浮かべて私を見つめる視線と交わった。



