「――というわけで、宇野女に会わせたい人がいるんだけど」


 喫煙所を出て、落ち込む私に矢田は顔を近づけて聞いてきた。


「いや……誰とも会いたい気分じゃないんだけど。それに、矢田もヤバイんじゃない? 部長にあんな態度……」

「ああ。大丈夫。俺、来月末で部署異動になるから。昨日、急遽来てほしいって言われたんだよね。なんと! 念願だった企画部! 企画部の部長と武平部長の仲最悪なのは知ってんだろ?」

「うん……」

「だから。異動前にずっと気がかりだった宇野女をなんとかしてあげたかったんだよ」


 矢田には悪いが余計なお世話だ。


 仮に部長が奥さんとの仲が良くて、夜の関係があったとしてもそんなの知りたくなかった。


 知らずに過ごしていたかった。


「……矢田は何も話してくれないんだね。入籍のことも、部署異動のことも。一番に話してほしかった。私だけ友達だと思ってたのバカみたい」


 ムカついて矢田に八つ当たりにも近い言葉を吐く。

 矢田は「それはごめん」と手を合わせて謝ってきた。


「俺のことはひとまず置いといて、宇野女のことだよ! 善は急げっていうし、今日の夜、空けといて」

「…………」


 気乗りしないが、矢田は言い出したら聞かない性格のため、しぶしぶ頷く。