「僕は、奥さんという大切な存在がいながら不倫する部長に見損ないますけどね。奥さん、毎回部長のことを笑顔いっぱいで話すんですよ、そんな奥さんのどこが不満なんです?」
綿谷先生が優しく問いかけると、部長は顔をこわばらせたまま奥さんのことを話しだした。
「……体があまり強くはない妻を大切にしたくて結婚したんだ。なのに、そんな妻を見ているのがツラくてね。俺の方まで気が沈んで、いつしか妻じゃない女性を拠り所にするようになったんだ。妻には悪いことをしているという罪悪感はちゃんと持ち合わせている」
今まで知ることのなかった部長の奥さんへの本音を今、聞けている。
「罪悪感があるのなら、部長が僕に向ける執着心は切り離して考えて下さい。不倫がどうのこうのは別に興味はありません。ですが、部長が定年退職をした際、お疲れ様と労ってくれる人は奥様だけですよ」
綿谷先生の言葉に部長は、机の一点を見つめて『そうだな。あと10年で俺も定年退職だな……』と呟いた。
「定年退職をしたら、奥様と楽しく過ごしてくださいよ。いっぱい旅行をして、行きたいところに行って、食べたいものを食べてください。奥様も、部長の定年退職後のためにも頑張って生きなきゃと言ってたんですよ」
「…………妻が、そんなことを」
「因みに奥さん、部長の不倫には気づいていますよ。でも、見て見ぬふりをしているのは自分の体が弱いからと言っていました。不倫されても仕方ないけどとても悲しいとおっしゃっていました。だから女性遊びが落ち着いた定年退職後はずっと傍にいたいと言っていました」



