私の街にやっと春が来た。

 それと同時に季節遅れのインフルエンザが大流行。

 両親と弟が寝込んじゃって、頼みの綱は私だけ。
 まだ元気のある私はマスクをして、コンビニへ買い物に来た。

 そんな場合じゃないのはわかってるけど、買ったばかりの春っぽいピンクのカーディガンを羽織っている。

 桜みたいな可愛いお花の刺繍がお気に入り。

 ボリュームマスカラもしたし、よし、可愛い、はず。

「いらっしゃいませー! あ、こんばんは」

「こんばんはです」

 吸血鬼の彼はカウンターから声をかけてくれた。
 かけてくれたってお客様には当然の挨拶なんだけど。
 ちょっと違うの。他の知らないお客様とは、もうちょっと親しい笑顔……なはず。

 でもあの冬の肉まんから、特に距離は縮まる事はなく今に至る。