紀和くんは、半分まぼろし



「月読 椋」

「………(しないっていった、のに)」

「つくよみ むく」

「……はい」

「ちっさ」

「むく」

「は、い」

きわくんが、上体を起こす。それから、カババちゃんからおりて、わたしのすぐそばに座り直した。シーツに絡まって、後ずさることもできず、わたしはじっとしていた。

おなじにおいがする。

それが分かるくらい近づくと、それ以外、わからなくなる。

きわくんは、わたしの部屋のアレクサに勝手に命令して、従順なアレクサが部屋のあかりを薄暗い間接照明に切り替えた。

そこから、ほんとうの夜は、瞬く間に部屋に広がる。

「今日、どこまでしたい?」

「……どこ、まで? そういうのは、あんまり、というか、ぜんぜん、わからないの」

「わからないは、だめ。おまえのれんしゅうなんだから、おまえが考えて決めろよ」

きわくんが、唇の触れるすれすれまで近づいて、透き通った瞳にわたしをとじこめる。

冬のおわりにはじまったばかりのことなのに、わたしは、きわくんにかかわる甘ったるいひみつでもうすでに、がんじがらめだ。