紀和くんは、半分まぼろし



かなりの距離をとって隣にすわったら、その距離を埋めるかのように、きわくんは、カババちゃんのうえで、こちらに向かってごろん、と横になった。

ちょうど下から見られるアングルにはずかしくなって顔が熱くなる。

鼻の穴とかに何かあったらどうしよう。

色気のない心配をしているところに、手が伸びてきて、横になったままのきわくんは、わたしの顔の輪郭をなぞるかのように指先をすべらせた。

くすぐったくて顎をひいたら、いたずらな指先は、唇までのぼり、その隙間に潜り込もうとする。

「ゆび、なめてみる?」

爽やかさからはかけ離れたあやしい声音に、耳から毒される。どきどき、じゃない。もっと、濁音が混ざる感じのこころの収縮に、わたしはもうどうすればいいのか分からなくなる。

だけど、口をひらいたら、きわくんの指がはいってくる気がして、唇は真横に結んだまま、精一杯首を横に振る。

「なんで。なめろって」

わたしのことをころすきなの、と、つよく言えたらいいのに、ぜったい言えない。

何度も首を横に振ったら、きわくんは、ふ、と苦笑いをして、あっさりと指先をわたしから離した。熱はしばらく消えてくれなさそうで、こまる。

「ていうか、おまえ、教室でこっち見すぎじゃない?」

「う。……みてないです。みないように、してます」

「うそつき。朝とか、視線感じすぎて、怖かった。眼鏡から光線でてた」

「……気のせい、だよ。光線でない、眼鏡だよ」

「あと、健康観察の声、小さすぎない? 練習するか、いま」

「……しない。あしたは、がんばる」