「さて、そろそろ聞きましょうか」
「……何を、でしょうか?」


食事が終わり落ち着いてきた頃。

私は電話での出来事を切り出すことにした。
不安そうに掛けて来た電話の時のことを。


「この間の、謎の電話です」
「…あれは……そうですね」

そう言って先生は黙り込んだ。

「学校で何かありましたか?」
「……その、まぁ…修学旅行での、心配事と言いますか。違うと言いますか…」


やっぱり煮え切らない様子の先生。

私は椅子から立ち上がり、後ろから先生を抱き締めてみた。


「……浅野先生と神崎くんの心配をしているのでしたら、それは無駄なことです。大丈夫、何も起こさせません」
「…何でそのお二人のことだと分かるのですか?」

後ろを振り返り、少し驚いた顔をしている。
……当たり前じゃないの。

「どれだけ裕哉さんを見てきたと思っているのですか。容易に推測できます」
「それは…才能ですね」
「馬鹿にしないで下さい」

先生も立ち上がり、私と向き合って抱き締め合う。
包み込まれるような感じが心地良い。

「浅野先生に、宣戦布告をされました。スキー研修での超えられないクラスの壁を上手いこと使われます」
「……どういうことですか」
「僕が干渉出来ないことを良いことに、浅野先生が貴女に付きっ切りになるとか。ならないとか。何かするとか、しないとか」
「………」

……やっぱり。
そんなの想定内だった。



「因みに、僕知っていますよ」
「何を?」
「スキー研修の班が神崎くんも一緒だと言うことです」
「………」




スキーの班決めは自由だった。

1班4人で1つだけ3人の班が出来るとのことだったから、私と有紗でペアを組み、他の人たちとくっつこうと考えた。

しかし、そうする間も無くひとりぼっちの神崎くんは私たちの元へ来たのだ。

「俺も仲間に入れてよ」

それを見た浅野先生は、同じ班になることを阻止させようと行動したのだが、失敗。
既に4人班が出来上がっており、私たち3人だけが残されていた。

「神崎~~~~~~…」
「しょうがないだろ、余ってしまったんだから」

少し嬉しそうな神崎くん。
不満そうな浅野先生。



…2組では、そんなことがあった。






「真帆さんはスキーの班のことを、一言も僕に言ってくれませんでした。旅のしおりが完成した時に知り、ショックを受けたものです。そして、実はその後、追い打ちを掛けるかのように浅野先生から宣戦布告を受けております」
「………」


それは……言えないよ。
浅野先生の件については知らなかったし。


けれど、先生には悪いことをしてしまった気がする…。



「正直、僕は不安です。非常に不安を感じております。それ故に、真帆さんを誰の目にも触れない場所へ連れて行きたいと、最近は常々思っております」
「……え」


ちょっと怖い怖い!!

先生があまりにも真面目に真顔でそんなこと言うから、笑い飛ばせるような雰囲気では無いけれど。


怖すぎて身震いをしてしまう。


「……不安です。真帆さん」
「それを言えば、私だって津田さんの動きを警戒しています。津田さんと裕哉さんが2人で並んでいるところを見たら、雪玉を投げ付けてしまいそうです。不安なのは同じですよ」
「……僕たち、嫉妬深いですね」
「私は裕哉さん程ではありません」
「…駄目です。僕以上に妬いて下さい」
「いや、意味が分かりません」


……しかし。
浅野先生も本当に懲りない。


神崎くんと言い、浅野先生と言い…何だろう。



どうしても早川先生のことを苦しめたいらしい。



早川先生のことを苦しめる度に、私の中の嫌悪感が強くなっていることにあの2人は気付いていないのだろうか…。






「裕哉さん」
「……真帆さん」

お互いの腰に腕を回し、長く見つめ合う。
そして、ゆっくりと唇を重ねる。

お互いの気持ちをしっかりと伝え合うかのようなキスを、何度も繰り返した。


「裕哉さん、不安にならないで下さい。大丈夫です。私が心揺らがない限り、何か起こるなんてこと有り得ないのですから」
「……そうですね」



先生は私を抱き上げ、優しくソファに寝かせる。
そして私の上にそっと覆い被さり、キスを続けた。



「真帆さん、愛しています」
「私も、愛しています…」




大好き。
裕哉さん、大好き。



誰が何を言ってきても、私が大好きな人は裕哉さんしかいないのだから。

こうやって裕哉さんと一緒にいる限り、何も起こらない。




それから私たちは想いを伝え合いながら、お互いを求め合った。

激しくも優しさのある行為の中で、裕哉さんの心の中がいつもよりも良く見えたような気がした。