それから数週間が過ぎ、あっという間に文化祭前日を迎えた。


体育館内の準備で大忙し。
しかし、明日の文化祭本番を迎えることによって、この実行委員としての日々が終わることに喜びを感じる。

解放される時を目標に頑張るのみ!



とはいえ…時刻は既に21時を回っている。
それなのに終わる目途が立っていない。

いつ終わるの、準備…。





「あれ、色々メモ書きしたプログラムはどこにやったっけ?」
「こっちない」
「もしかしたら会議室に置いたままかも」


みんなそれぞれにやることがあり、バタバタと忙しい実行委員。


「…あ、私探してくる」
「ありがとう、宜しくね藤原さん!」


簡単な探し物。
ちょっと息抜きをするには丁度いい。



体育館を出て校舎に向かう。
実行委員と生徒会と先生たちしか居ない学校。

校舎内は様々な装飾が施されており、いつもとは全く違う空気感になっていた。





足早に会議室へ向かい、電気も付けずに暗闇の中を探す。
書類の山を探すが、目的の物は見つからない。

「どこだろう」



次の山を探そうと体を起こすと、突然後ろから誰かに抱き締められた。



「…藤原さん」
「……………え?」


その人から香る匂いで、早川先生では無いことは一瞬で分かる。


「少し、話を聞いて」


その声は、浅野先生だった。


「は、離してください!!」
「話を聞いてって」

いつもの明るい声とは全然違う。
低くも優しさのある声だった。

「この前も言ったけど、頑張ってくれてありがとう。僕は君の担任であることを誇りに思うよ」
「………」


早川先生よりも背が低く、少し小柄な浅野先生。
それでも私より大きいその体は、男らしさを感じさせる。


「…頑張るのは当たり前のことです。お願いですから、離れてください」
「嫌だ」
「早川先生呼びますよ」
「呼んでどうするの? この光景を見せて傷付ける?」
「……」

酷い人だ。
そうやって私の選択肢を奪う。


「あんなに辛く酷いことをされても、挫けずに頑張る君を素敵に思う。…おかしいよね。僕は、生徒と付き合うなんてありえないと思っていたのに。こうやって、藤原さんのことを好きになってしまうなんて…」


凄く小さな声。


…こんなの。
高校生になって、何回目。


私、数学教師を引き寄せる電磁波とか出ているのかな。



「…浅野先生。探し物をして戻らないと。みんなが困ります」
「わかっているよ…けど…」


浅野先生は一瞬だけ手に力を込めて、私の体を回しお互い向き合う。



そして…ゆっくりと顔を近付けてきた。



いや…嫌だ、無理!!!


「嫌だ!!!!」


力を振り絞って浅野先生を思い切り押した。
先生の手が少し離れたタイミングで抜け出し、走って会議室を出た。


「藤原さん!!!!」


名前を呼ぶ声が聞こえてきたが、無視して走り続けた。