その日の夜。
早川先生から引くほど着信が入った。

「………」


また、鳴り出すスマホ。


7回目の着信。
流石に可哀想になってきた。



「…はい」
『あ、やっと出ましたね』

いつもより声のトーンが低い早川先生。
低く囁くような声に鳥肌が立つ。

『…何で話せないのですか。何があったのですか』
「………」
『真帆さんが浅野先生に指名されて文化祭実行委員になったこと。神崎くんも一緒なこと。的場さんから聞きました。それが関係していますか』
「……それもそうですが、今回の件について関係しておりません」
『では、何でしょうか』
「……」

言えない。というか、言いたくない。

『真帆さん…お願いします。話して下さい』
「……」
『真帆さん…』


話すまで諦めてくれなさそう。


「……」




私は話す決意をした。




「………先生のクラスの、津田さん。3組の文化祭実行委員の人。数学補習同好会に入りたいらしいですよ」

そう言うと先生は少し黙った後、小さく溜息をついた。

『…実は担任になってから、何度か入部したいと言われたことがありました。勿論お断りをしていたのですが…』
「……自己紹介の時、私が数学補習同好会って言ったら凄く反応しちゃって。私、津田さんのこと何も知らないから、何でそんなに反応したのか凄く不思議だったんですけど…………」

そこまで言って、言葉を継げなくなった。
胸が締め付けられて苦しい。



『………』

お互い無言の時間が続く。

そして、少し経って先生が口を開いた。


『真帆さん、今から会いましょう』
「…え?」
『今すぐ向かいます』
「え?」


先生はそう言い残して一方的に電話を切った。