「ゆーくん!こっちこっち!」

教室へ向かうと扉前で凛が手を振っていた。

「悪ぃ遅くなった。」

「ううん!大丈夫だよ!」

ニコリと微笑むと行こっと俺の手を引っ張った。

まず凛が向かったのは校舎内での出し物だった。

「ゆーくん!今年も入るよ!」

そう言って指さしたのはお化け屋敷だった。

今年もやってんのかよ。

どんだけ好きなんだよ、まじで。

「すいません!入ります!2人です!」

「どうぞ〜!……え?」

入口前に立っていた生徒は笑顔でどうぞと言ったが、

2人と言う言葉を聞いて困惑した顔をしていた。

が、そんなことお構い無しに凛はさっさと入ってしまった。

「ゆーくん、離れちゃダメだからね!」

「分かってる。隣にいるから大丈夫。」

そう言いながら進んでいると、頭上から骸骨の頭が降ってきた。

「……。」

「ぎゃーーー!」

凛は大絶叫。

それとは反対に俺は冷静に骸骨を見つめていた。

「凛、行くぞ。」

「う、うん。」

ガチャりと扉を開けると、棺桶が置いてありその中からお化けに仮装した生徒が、うわーーー!と現れた。

「ぎゃーーー!」

「……。行くぞ。」

2、3分程度のお化け敷だがまぁまぁしっかり作られているとは思う。

このあとも凛は盛大に叫び続けていた。

こんにゃくを落とされたり、仮装した生徒に追いかけられたりと色々な仕掛けがあった。

「ふー怖かった…。でも、ゆーくんと一緒だと楽しいね!」

ニコリと微笑みながらこちらを見た。

「俺も凛と一緒だと楽しいよ。」

ま、全然怖くはなかったけど。

俺も凛の方を向いた。

のはいいが、凛は首をかしげてキョロキョロと辺りを見回していた。

「凛?どうした?」

問いかけて見たが反応はない。

もう一度声をかけようとした時、凛が口を開いた。

「あれ?ゆーくんどこ行ったの?」

は?

今なんて…?

「凛、目の前にいる。凛!」

聞こえていないのか、ゆーくん?と呼びながらキョロキョロしている。

もしかしたら、もうこのまま…。

でも、まだ俺は存在できている。

じゃ、なぜ?

不安で俯いたままじっとしていると、凛が顔を覗かせた。

「ゆーくん!ここで何してるの?探したんだよ!もしかして、体調悪い?」

「凛…。」

「ん?って、うわ!何どうしたの、ゆーくん!」

俺は嬉しすぎて凛に抱きついていた。

「ごめん。なんでもない。ただ抱きしめたくなっただけ。」

「えー何それ。まぁいいけど。」

ふふと凛は笑った。

「よし、ゆーくん次行くよ!」

また、凛は俺の手を引っ張り歩き出した。

「これこれ!食べたかったんだよね!1袋ください!味はチーズで!」

「はい!少々お待ちください!」

凛が向かった先はフリフリポテトだった。

そういや、祭りとか行っても絶対ポテト買ってたな。

チーズが1番美味いとか行って嬉しそうに買ってきてた。

それを俺が横からつまみ食いして怒られるのが恒例だ。

はは、懐かしい。

「おまたせ!買えた!いただきます!」

ん〜美味しい!と幸せそうに頬張る凛。

「ゆーくんも食べる?」

「いや、俺はいい。」

「そう?いつもはつまみ食いしてくるのに。」

凛はクスクスと笑っていた。

この後もあっちこっち回った。

焼き鳥、迷路、チョコバナナ、体育館での出し物など色々と回った。

なぜか迷路は2回も行った。

かなり連れ回されたが嫌だとは思わなかった。

凛が幸せそうにしていたから俺も幸せだった。

そんな幸せの時間もあっという間で、

もう、片付けの時間。

チャイムがなり1日目の終わりを知らせる。

「皆さん、素早く片付けをして各教室へ戻ってください。」

先生が拡声器で呼びかける声が聞こえた。

生徒たちはさっさと片付けをしゾロゾロと教室へ向かった。

教室へ戻ります10分くらいして担任がやってきた。

「皆さん1日目お疲れ様でした。えー明日は……」

担任は淡々と明日の流れを説明した。

午前に担当のものは9時までに準備を済ませる。

午後の担当の者は13時には配置に着くこと。

8時半に1度集まり、いつも通り朝のHR。

場所は教室ではなく各エリアとのこと。

1日目のときもこんな感じで説明していたのだろか。

昨日は話を聞いていなかったため、凛に軽く確認をとり今日登校した。

「では、説明は以上ですので、明日も怪我をしない程度で楽しんでくださいね。それでは、さようなら。」

みな、今日は楽しかったなのど話しながら教室から出ていった。

「いやー、まじ楽しかった!毎日でもやりたいよな!」

「毎日はいらないかな。」

「なんだよ、翔!ノリ悪ぃぞ!楽しくなかったのかよ?」

「いや、凄く楽しかったよ。絢音と色々回れたし。」

「へいへい。良かったですね。」

2人も楽しめたようだ。

微笑ましく思いながら2人の後ろに着いて歩いた。

「おーい。翔!」

「絢音。おつかれ。」

「おっつー!ほれ、帰るぞー!」

門まで来ると絢音と凛が待っていた

そして、絢音と翔は腕を組んで歩き出した。

「はぁ…イチャイチャしやがってよ…。なぁ?凛ちゃん。」

「ふふ。幸せそうでいいじゃん!私もゆーくんとイチャイチャする〜!」

そう言って俺の腕にしがみついた。

「チッ!」

竜は盛大な舌打ちをした。

「あー!今舌打ちした!ひどーい!」

「べっつに〜。」

ムー!っと凛は頬っぺを膨らませて怒っていた。

平和だ。

とても平和で幸せな時間。

こんなにも幸せで嬉しいのに、凛に対する不安と違和感はずっと消えてくれない。

「ゆーくん?大丈夫?」

表情が暗かったせいか凛に心配されてしまった。

「大丈夫。な、なぁ、り…」

「じゃあ、みんなばいばーい!」

凛を呼ぼうとしたが雨乃の声に遮られてしまった。

「ばいばーい!あ、ごめんね、ゆーくん!何か言うとしたよね?」

「あ、いやなんでもねぇよ。」

ははと笑って誤魔化した。

「そっか!」

弱虫な俺は結局何も聞けなかった。

その後は2人とも無言のまま家へ帰った。

凛を家まで送り届け、俺は、

明日にはこの不安も違和感も消えていますように。

と心の中で願い自分の家へ帰宅した。