「わたしの心が動かない可能性とか、考えないわけ?」

「んなもん、考えたって仕方ねぇじゃん。限りなく低い可能性に時間使うのももったいないし」

「どこから来るのよ、その自信」


呆れたように息を吐くけれど、やっぱり有斗は楽しそうだ。

飛び立つ日を待ち望んでいた鳥のようだ、なんてぼんやりと思った。


「……いい加減、手離して。誰に見られてるかわからない」

「暗いし、大丈夫だろ。誰も見てねぇって」

「大丈夫じゃないよ。あんたは、もう少し自分の仕事を理解したほうがいい」


有斗の返答はわかっている。

誰に見られたっていいと言うんだろう。

信念は絶対曲げない。意志も捨てない。昔から、有斗は有斗のままだ。

それなのに、いつからわたし達の関係性は変わっていたのかな。


「……今日だけだからね。あんたのフォロワー、とんでもなく増えてるし。わたし、恨まれたくないもん」

「……」

「ねぇ、有斗」

「……仕事辞めるか」

「バカ言わないで」


空いているほうの手で有斗の背中をぱしっと叩くと、わずかに振り返った有斗が眉尻を下げた。


「ねぇ有斗」

「なんだよ」

「晩ごはん、天津飯が食べたい」


わたしが言うと有斗はからからと笑って、それから、帰り道にある町中華のお店を目指して歩いた。