わたしの手をぐいぐい引いて、有斗は迷うことなく歩いていく。

前を歩く最中に、投げかけたい言葉は山ほどあった。

逡巡して、第一投にする言葉を選ぶ。


「わたし、流されないからね」

「何が?」


有斗は振り返ることなく、飄々と聞き返してきた。

わたしは眉間に力を入れてから、息を吸い込む。


「わたし、まだ理解しきれてないの。いきなり、意識を切り替えるなんてできない」


結子に言われたことを思い出し、有斗の気持ちを疑っているわけじゃないんだけど、と言い添える。


「でも、どうしたって有斗は傍にいるわけで」

「おい、嫌そうに言うな」

「たぶん、こうやって有斗の態度が変わっても……それこそ、わたし達の距離感は変わらず、ご飯食べたり一緒に登校したりするんだと思うの」


わたしは恋愛経験がない。

当たり前に有斗がいる日常の中、恋人のような振る舞いをされ続けたら。

なんていうか……熟年夫婦みたいになりそうじゃないかと思うのよね、わたし達……。


でもそれは、有斗が望む関係ではないだろうし、わたしにとっても、ただ流されているだけに他ならない。