いつも通りが何なのか、それすら見失ってしまいそうになっている。

教室の入り口で立ち尽くしていると、有斗が気怠げに立ち上がり、開け放たれた窓を閉めた。


「お待たせ。帰ろ」


鞄を持ってわたしの隣に立った有斗は、いつも通りだった。

数時間前に見た、焔が宿るような眼差しはない。

そのことに気が付いて、わたしの緊張がふっと緩む。

群青色に染まりつつある空の下を歩き、家が前方に見えてきた時には、平常心を取り戻せていた。


「今日は有斗ママの帰り、早いんだよね?」

「うん。俺の体育祭にかこつけて、焼肉食べにいくぞーって朝から意気込んでた」

「あはは、有斗ママらしいなぁ」

「美月も行く? 俊哉くん達遅いようなら美月にも声かけてみてって、母さんに言われてたんだった」

「えぇ? それ、早く言いなさいよ」


いつもの調子で、右隣の有斗の腕をぱしっと叩く。


「せっかくだけど、今日はやめとこうかな。さすがに疲れちゃった」

「今日、設営とかで随分早く登校してたもんな」