「おつかれさまでした、美月先輩。気をつけて帰ってくださいね」

「う、うん。谷瀬くんも、部活頑張ってね」

「ありがとうございます。頑張れます」


ひらひらと手を振る様は余裕すらも感じさせる。

じゃあね、と菊池にも別れを告げ、わたしは人気のない階段を上った。


静けさに包まれる中、大きく深呼吸をしてから教室のドアを開けた。

大きな窓から西陽が差し込んだ教室はオレンジ色に染まっていて、吹き込む風がカーテンを靡かせている。


「あ、有斗」


自分の席に突っ伏した幼なじみの名前を呼ぶと、彼はゆっくりと顔を上げた。

柔らかそうな短い髪が、そよそよと風の中で踊っている。


「美月」

「お、お待たせ。待ってるって、一緒に帰るってことでよかったんだよね?」


上擦りそうな声を、お腹に力を込めて必死に堪える。


「うん。わざわざ教室まで上がってこなくても、連絡くれたら下りたのに」

「あ……そっか。連絡くれって言ってたね、すっかり頭から抜けてたや」


いつも通りの会話のはずなのに落ち着かない。