「……ここ、怪我人や体調不良の人が来るところなんだけど?」


眉間に深い皺を刻んだのは有斗で、捲られた袖からは程よく筋肉のついた腕が伸びている。

通路を横目に見ると、通りがかった女の子達がちらちらとこちらを覗っていた。


「どこか怪我したの?」

「いや」

「じゃあ体調悪いの?」

「全然」

「じゃあ、なんでここに来たの」


怒られないかと先生を見るも、むしろ楽しそうにこちらを見ていた。

まだ若い先生だけど、何を考えているのかわからない。


「あいつ、何」

「……え?」


有斗の低い呟きは、わたしの思考に留まらずすり抜けていく。

そんな様子を見た有斗は、苛立ちを隠すことなく入場門の方を睨みつけた。


「あいつ。さっきまでここにいたやつ」

「さっきまでって……谷瀬くんのこと……?」


何、と言われても。

同じ実行委員の後輩くんで、同じ救護班で、たまたまくじで同じ当番になったわけで。

それを一体、どう説明すればいいの。

って言うか、なんで説明しなきゃいけないんだ……?