あれで擦りむいたってことは……。


「見せて」

「平気ですよ、別に痛くもないですし! 血ももう止まりかけてますし」

「血が止まってても、万が一ばい菌が入ったり、棘が刺さってたりしたらどうするの」

「……」

「いいから見せて」


強く言うと、谷瀬くんは素直に腕を差し出してきた。

近くに座っている養護教諭の先生に断って、薬箱から消毒液と綿を取り出して消毒する。


「痛い?」

「いえ……平気です」

「よかった。もうちょっと我慢してね」


傷口をよく観察するけれど、棘が刺さっている様子はない。

ほっと胸を撫で下ろして、傷の上から絆創膏を貼り付けた。


「はい、おしまい」

「あ……ありがとうございます」

「いいえ。お大事にしてください」


おどけて言うと、されるがままだった谷瀬くんの表情も綻んだ。


会場内にアナウンスが流れ、選手達が入場してくる。

グラウンドに視線を戻すと、救護所の正面、うちのクラスの席がある辺りに人だかりが出来ているのが見えた。