「借り物競走! おれ、出ますよ」


谷瀬くんがひょこっと手を挙げた。

わたしと菊池は思わず顔を見合わせる。


「立候補したの?」

「いや、なんか友達に推薦されて。もう一つ出るリレーも、勝手にメンバーに決まってて。おれ、ほんとは玉入れしたかったんですけど」


しゅん、と萎れる耳が見えるようだ。

リレーと借り物競走。クラスでの谷瀬くんの立ち位置がよくわかる……。


「人気者なんだねぇ、谷瀬くん」

「天性の人たらしだからなぁ、琉輝は」

「えぇっ!? なんですか、それ!」


困惑気味に声を上げるも、菊池は答えず受け流している。

谷瀬くんはそんな先輩の様子に頬を膨らませ、唇を尖らせていた。


「なんか楽しそうな雰囲気〜」


飴玉のような声が聞こえて、振り返ると真由美ちゃんとメグちゃんが立っていた。

アナウンス班の打ち合わせもひと段落したらしい。


「当日、借り物競走のときの放送って上原と田中だったよな?」

「うん、そうだよ」

「それがどうかした?」

「借り物競走、琉輝が出るんだってさ」