中には有斗のことを知ってる人もいるかもしれない。

知らなくたって思わず見てしまうほど、有斗のオーラは人を釘付けにする力があるのだろう。

当の本人は、そんなことには気付かず眉間に深い皺を寄せているけれど。


「なに、写真、ダメだった?」

「……いや、撮り方とかは悪くねぇと思うんだけど」

「けど?」

「……これ、近藤さんに送っても絶対却下される」


有斗の手元のスマホを覗き込む。

液晶の中の有斗は、真っ直ぐにこちらを向いて、幻想的な青い水槽と融和して見える。


却下って、どうして?

聞こうと思って口を開く前に、有斗がわたしの手にスマホを押し付けた。


「悪いけど、もう一回撮って」


再び水槽の前に立った有斗は、今度は後ろを向いた。

顔だけを少し後ろに逸らせて、どこかアンニュイな空気を醸し出す。

正面の写真は撮らないのかな……。

不思議に思いつつも、モデルの仕事については何一つわからないので、けしてカメラに視線を向けない有斗の姿を静かに撮り続けた。




「クラゲ、見たかったの!」