神崎らしいな、と菊池が肩を竦めて笑った。
その後は、どちらからともなく口を噤んだ。約束の時間が迫っている。
ここから、有斗の姿は見えない。
心臓が口から飛び出そうになっているわたしとは違って、きっと少しも緊張なんてしていないんだろうなぁ……。
緊張が頂点に達しかけたところで、屋上の扉が開く音がした。
「寒い中、呼び出してごめんな」
屋外だというのに、不思議と有斗の声はクリアに聞こえた。
校舎では4時間目の授業が行われているところで、校内が静まり返っていることも大きいのかもしれない。
不穏な空気をひた隠しにした柔らかな声色に、心の奥底がわずかに軋んだ。……わかってる。仕方ないことだって、飲み込んだはずだよ。
間違っても声が漏れないよう、口を両手で覆った。それとほぼ同時に、
「ううん。連絡くれて嬉しかったよ──神崎くん」
同じく穏やかな彼女の声が、澄んだ空気に響いた。
誰から見たって、有斗は学校一の有名人だ。
お世辞にも愛想がいいとは言えないけれど、甘いマスクは女の子達に『有斗くん』と容易に呼ばせる。
その後は、どちらからともなく口を噤んだ。約束の時間が迫っている。
ここから、有斗の姿は見えない。
心臓が口から飛び出そうになっているわたしとは違って、きっと少しも緊張なんてしていないんだろうなぁ……。
緊張が頂点に達しかけたところで、屋上の扉が開く音がした。
「寒い中、呼び出してごめんな」
屋外だというのに、不思議と有斗の声はクリアに聞こえた。
校舎では4時間目の授業が行われているところで、校内が静まり返っていることも大きいのかもしれない。
不穏な空気をひた隠しにした柔らかな声色に、心の奥底がわずかに軋んだ。……わかってる。仕方ないことだって、飲み込んだはずだよ。
間違っても声が漏れないよう、口を両手で覆った。それとほぼ同時に、
「ううん。連絡くれて嬉しかったよ──神崎くん」
同じく穏やかな彼女の声が、澄んだ空気に響いた。
誰から見たって、有斗は学校一の有名人だ。
お世辞にも愛想がいいとは言えないけれど、甘いマスクは女の子達に『有斗くん』と容易に呼ばせる。



