「え……」

「有斗の好きなチーズケーキもなく、チョコばっかり。珍しいこともあるもんだなぁと思って食べたら美味しくて、調べたらうちの会社の近くだったから買ってきたんだ」


さすがにチョコばっかり買ってきてないよ、と笑う有斗ママと有斗が重なる。


──あの日。

わたしが、谷瀬くんと出掛けた1ヶ月前のあの日。

部屋にやってきた有斗が、これと同じ紙袋を持っていた。


「夕飯時にごめんね。本当にありがとね」


隣の家に帰っていく有斗ママを見送って、わたしも自宅に戻る。

手元には、きっとあの日有斗が買ってきてくれていたのと同じケーキがあって、わたしの視界はじわりとぼやける。


有斗ママが教えてくれなきゃ、知らないままだった。

わかりにくいけれど、ずっと、ずっと、大きな愛情をくれていたんだなぁ……。


たくさん待たせて、たくさん傷つけてしまった分、これからは全力で大切にしよう。

有斗が育ててくれたこの恋を、今度はわたしが守るんだ。


そう心に決めて、わたしは手の甲で目元をぐいっと拭った。