モニターを確認すると有斗ママが立っていて、わたしは慌ててお鍋の火を止めて玄関先に出る。


「みーちゃんごめんね、無理言って! 本当に助かった〜!」


スーツ姿の有斗ママの、いつもは綺麗に整えられた髪が少し乱れていた。

何だか少し気恥ずかしくて、前髪をちょいちょいといじる。


「平気だよ、予定もなかったし。有斗しんどそうにしてたから、むしろ連絡もらえてよかった」

「何から何までありがとう……」


お礼に、と何やら茶色い紙袋が差し出される。

筆記体で何やら文字が書いてあるそれは、見覚えがあるような気がするけど思い出せない。

受け取って中を確認すると白い箱が入っていて、留めてあるシールにはパティスリーの文字。


「わ、嬉しい。ありがとう」

「こちらこそ。チョコケーキ以外は食べたことないけど、美味しいと思うよ」

「チョコケーキ?」


なんで敢えてそんな言い方を?

不思議に思って首を傾げると、有斗ママが笑った。


「先月、有斗がそこのケーキ買ってきてくれてたんだけど、全部チョコ系だったんだよね。だから、ショートケーキとかモンブランとかの味はわかんなくて」