かぶりを振るわたしの頬に、有斗の手がそっと伸びてくる。

長い指がわたしの涙を拭おうとして、はっとしたようにその動作が止められた。

瞬間、心寒さがわたしを襲う。


「……もう簡単に触れたらだめだよな」

「え……?」


どうして?

目の前がチカチカして、また視界が滲む。

その向こうで、有斗はくしゃっと笑った。


「あいつに悪いしさ。……俺も、諦めつかなくなるし」


タオル出すから待ってろ、と部屋の中を振り返った有斗。

気が付けばわたしは、その背中に手を伸ばしていた。


「……は?」


両の腕で捕まえた体は明らかに熱くて、わたしが想像していたよりもずっと広かった。

有斗はブリキになったみたいに動きが鈍くなって、前を向いたままだ。


「おま、何して──」

「行かないで」


震える指先で、有斗の着るトレーナーをぎゅっと握る。

このまま、捕まえておきたい。どこにも行かないで。ずっと隣にいて。

自覚した途端に、わたしはとてもわがままになっている。


「有斗が傍にいないと嫌。お願いだから、離れていかないで」

「みつ……」

「今更かもしれないけど、わたし、有斗が特別だって気付いたの」