「……っ」


扉を開けた瞬間、有斗の匂いが鼻腔いっぱいに広がって、この部屋で過ごした色んな記憶が頭の中に次から次へと浮かび上がってきた。

あぁ、だめだ。なんだか泣きそうだよ。

ぎゅっと唇を噛んで、また一歩、中に入る。


有斗は、外出用のスウェットを着たまま、顔を真っ赤にしてベッドで眠っていた。

その額にはわずかに汗が滲んでいて、息も荒い。


「有斗ママが連絡くれてよかった……」


枕元を見回すも、空になったペットボトルがあるだけで、体調を崩した有斗の助けになりそうなものは何もない。

わたしはスーパーの袋からスポーツドリンクと冷却ジェルシートを取り出して、ベッドサイドに置いた。


それから有斗の部屋を出て、1階にあるキッチンをお借りしてお粥を作った。

有斗が好きなたまご粥。昔も、何度か作ってあげたことがある。

レトルトのお粥だと、ぶーぶー文句言うの。真っ赤な顔のまんまで。

そのくせ、少し焦がしてしまった時は、一言も文句を言わずに食べてくれたっけなぁ……。


りんごも買ってきたので、それも剥く。

わたしが体調を崩した時は、有斗がりんごを剥いてくれたこともあった。