「もしまた何かあれば、絶対言ってくださいね。おれ、超特急で駆けつけるんで」

「大丈夫だよ。ありがとうね」

「冗談じゃないんだけどなぁ」


にこやかに話をしていた谷瀬くんの視線が、不意にわたしの背後に向けられた。

空気がピリッと張り詰めて、振り返ればそこには教室に戻ってきた有斗とツジが立っていた。


ツジはあちゃーっと額に手を当てて、それから、有斗は……。


「……っ」


こちらを見ることなく、教室に入っていく。

冷たい目。絡まない視線。未だ慣れないそれらに、わたしの胸はズキズキと痛む。


「美月せんぱ……」


谷瀬くんが何かを言おうとした瞬間、チャイムが鳴り始めた。

ここは2階で、1年生の教室は4階だ。

慌てた様子の谷瀬くんを送り出し、わたしも教室に戻る。


席に座る前にちらりと有斗の方を見たけれど、彼の視線は何かを拒むように灰色の空に向けられていた。




翌日の水曜日、教室に有斗の姿はなかった。

有斗を訪ねてきた女の子達は、仕事かなぁと口を揃えて残念そうにしていたし、わたしも撮影か何かだろうと思って気に留めていなかった。