「おれ、負けず嫌いなんで」


不敵な口調で谷瀬くんが言って、菊池は笑いながら肩を竦めた。


「知ってる。というか、おまえの場合は組手見るだけでもわかるよ」

「あはは、そうですか?」

「そろそろお邪魔虫は消えるとしますかね」


じゃあまたな、と言い残して、菊池は教室の方へと戻って行った。

もうすぐチャイムが鳴る頃かな、とスマホを取り出して時間を確認しようとした時、ふとわたしの耳に谷瀬くんが口を寄せた。


「あれ以降、メモは入れられてないですか?」


予期せぬ近さに目を瞠るけれど、鼓膜を震わせた声の色は真剣なもので、彼がわざわざ教室に来てくれる理由を思い知る。


「うん。あれから、ぱったりと来てないよ」


有斗から離れて、という送り主の望みが叶ったからか、あれからメモは入れられていない。

返答を聞いた谷瀬くんは、心底ホッとしたように表情を緩た。


「よかった。嫌なこと蒸し返すのもと思って、なかなか聞けなくて。安心しました」


すごいなぁ。窓の外は相変わらず曇天で、廊下はいつもよりどんよりと薄暗いのに、ここだけ明るく感じるよ……。