「むかつくって?」

「さっき、下級生に声掛けられたでしょ? 有斗くんのこと気になるなら、みーちゃんじゃなくて本人に行けばいいのに〜って思って」


口調はいつも通りだけど、結子の眉はきゅっと寄せられていて、不快感を露わにしている。


「まぁ……有斗はにこやかなタイプじゃないから、なかなか勇気が出ないんだろうね」

「そんな勇気も持てないくせに、幼なじみのみーちゃんに探りを入れるのがむかつくんだよぅ〜!」


憤慨する結子の声が空き教室に響いて、わたしは渇いた笑いを漏らす。

結子はふわふわしているけれど、自分の意見はちゃんと持っている子だ。そんなところが、今のわたしには眩しく映る。


「それにしたって、有斗くんも頑固だよねぇ。もう1ヶ月も冷戦状態なんて」

「……うちの親、わたし達がぱったりと関わらなくなったことに触れちゃいけないみたいな空気があるよ」

「わぁ気まずい」


玄関先で有斗ママとパパと顔を合わせた時は普通だったけど、たぶん神崎家でも似たようなものだろう。

両親同士仲が良いから、もしかしたら何事だと4人でザワザワしてるかもしれない。