痛そう、と思った。

涙の幕の向こうで、谷瀬くんが苦しそうに顔を歪めている。

そんな顔、谷瀬くんがしなくたっていいのに。


「このこと……神崎先輩は知ってるんですか?」


絞り出すように問われて、わたしは力なく首を振った。

口角を持ち上げて、なんてことないふりで返事したかったけど、うまく出来たかわからない。

瞬間、掴まれていた腕を強く引かれた。

見えていた景色が急に後ろに流れ、ぽすんと何かに包まれる。


「なんで1人で抱えて、1人で泣くんですか。なんであの人は……美月先輩がこんなふうに思い詰めていることに気付かないんだ」

「たにせ、く……」

「おれだったら、美月先輩のこと、こんなふうに泣かせたりしないのに……!」


わたしの肩に回された腕が力を強めた。

ジャージから香る洗剤の匂いと制汗剤の香りが、涙で濡れた鼻先を撫でる。


「先輩。おれ、笑顔の先輩がいちばん好きです。美月先輩が泣いてるなら、全力で笑わせるから。だから、」


あの人じゃなくて、おれにしときませんか。

谷瀬くんの切羽詰まるような声がそう言った。