「美月先輩……?」


縫うようにしてわたしの名前を呼ぶ声があった。

涙で濡れた顔を上げると、廊下に立っている部活ジャージ姿の谷瀬くんがいた。


「どうしたんですか。体調でも悪いんですか」


わたしの元へ駆け寄り、谷瀬くんが慌ててこちらを覗き込んでくる。

わたしはふるふると首を振るけれど、一度弛んだ涙は一向に止まらない。


「じゃあ、どこか痛いんですか? それとも──」


谷瀬くんの視線がわたしの手元に留まる。

瞬間、表情をさっと変えた。


「この紙……」


わたしが握り締める間もなく、その紙は谷瀬くんの手に渡った。

昇降口に続く廊下の向こうで、誰かの話し声が響いている。


「……立てますか? 動けるなら、移動しましょう」


谷瀬くんに支えてもらい、人気のない場所へと移動する。

頭の隅ではわかっていた。

ここで谷瀬くんを頼るのはよくないってこと。

鈍感だと言われるわたしだけど、それくらいはわかる女でいたい。


「……ごめんね、なんでもないの。大丈夫だから」