やけに高い声が、蜂蜜のような粘り気を持って鼓膜にまとわりつく。

有斗の返答は聞こえない。

それでも高い声はめげることなく有斗を囲い続け、わたしの心にちくちくと刺さった。


こんな事態になる前、わたしは抑止力だった。

遠く離れたところから投げられていた視線が、今は近い距離で有斗に届いている。




【ごめんなさい。一回、ちゃんと話をさせ│】

そこまで打って、また消した。

何度有斗とのトーク画面にごめんなさいと打ち込み、消したのかもうわからない。

誰もいなくなった教室で1人溜め息を吐いていると、ガラッと扉が開いた。


「秋山、まだいたんだ」


顔を上げると、クラスメートの横川くんだった。

わたしはうん、と頷いてから力なく立ち上がる。


「もう帰るのか?」

「うん。残っても用事ないし」


じゃあね、と横を通り過ぎようとした時、ぱしっと腕を掴まれた。

思いもよらない出来事に、びっくりして肩を跳ねさせると、彼は慌てて手を離した。

それから、視線をあちこち泳がせながら、やはり慌てた様子で言葉を探す。


「俺ももう帰るから、よかったら一緒に帰らないか?」

「え……」