「ただの幼なじみに、今更、いちいち気遣わなくていいから」

「ある──」

「昨日おまえの部屋行った時、誰と出掛けるんだって質問に答えなかったよな。それって、俺が嫌がるってわかってたからだろ?」


心が凍りつく感覚を覚えながら、鼓膜を直接叩かれているんじゃないかってくらい大きな鼓動を感じる。

何か言わなきゃと思うのに、少しも声帯は震えない。


「別にいいよ。死ぬほど嫌だけど、おまえは俺のもんじゃねーし、誰と何しようがおまえの勝手だ。あの時言わなかったことを責める理由はない。──でも」


有斗がゆったりとした動作で振り返った。

髪が風に揺れ、目にかかる。──ひどく、悲しい目をしていた。


「好きだって伝えたはずの相手に、適当に誤魔化されて他の男と出掛けられるのは、さすがの俺でもきついわ」


目の前が真っ暗になる。──傷つけてしまった。

試験を終えたことを労ってもらった。靴箱に投函される不気味なメモのことを忘れたかった──。

でもそんなこと、有斗には関係ない。