言葉とは裏腹に、注がれる眼差しは溶けたアイスみたいに柔らかい。

出会った頃の彼は、こんなふうに微笑む男の子だったかな。


「美月先輩の良さを知ってるの、おれだけじゃないってこともわかってます。誰が見たって、美月先輩はすてきな人だから」


そんなことないよ、と口を挟む余裕もないほど、谷瀬くんの声色は揺るぎなくて。


「でも、スタートラインに立たなきゃ何も始まらない。だから、美月先輩の受験が終わったら、ちゃんと気持ちを伝えようって決めてたんです」


谷瀬くんをお花に例えるとしたら、ひまわりだと思う。

太陽の下で、真っ直ぐにぐんぐん伸びる夏の花。


「返事、今はいらないです。急にめちゃくちゃアピールしたり、プレッシャーをかけるつもりもありません。

でも、きっとこれでスタートラインに立てたはずなので、少しずつでいいから、おれのこと知ってくれませんか」


初めて見る顔だった。

表情は穏やかなのに、どこか凛々しく力強い。

彼の気持ちが真剣なのだと伝わって、わたしは、胸の奥底がぎゅっと締め付けられるのを感じながら頷いた。




谷瀬くんと別れ、1人になった帰り道。

わたしは、ついさっき自分の身に起こった出来事と、有斗のことを思い出していた。