「これ……」

「美月先輩は指定校推薦だから大丈夫って言ってたけど、それでも試験は試験じゃないですか。面接も小論文も、受けてる間は緊張だってするだろうし」


相変わらず、わんこみたいににこにこと笑う谷瀬くん。

夏を越えて随分大きくなったような……?

実直に部活に励んでいる姿が目に浮かぶなぁ。


「もらっちゃっていいの?」

「もらってください。おれ、受験なんてまだまだだから手元にあってもしょうがないし」

「あはは、それもそうだけど」


くるりと裏返せば、県内で有名な神社の名前が記されていた。


「ここ、結構遠いのに……。ありがとう、すっごく嬉しい」

「いえ。おれがどうしても渡したかっただけなんで!」


太陽みたいな笑顔を弾けさせてから、谷瀬くんがちらりと視線を教室の中へと投げた。


「いないんですか? 神崎先輩」

「え、有斗? 有斗だったら、ツジ……えっと、友達とどこかでお昼食べてると思うけど……」


谷瀬くんが有斗の名前を口にするのは珍しい。

夏休みに行った花火の日も、有斗がやたらと谷瀬くんに対して警戒しているような感じで、2人が直接話をしている姿は見なかった。