「みんないい子でしょ? 特に菊池」


ニヤリと笑って言うと、有斗はきゅっと眉を寄せた。


「悔しいけど、いいやつだった。でも、めちゃくちゃからかわれた」

「え、どうして?」

「普通に話してるだけでガン飛ばしてくるとか、秋山のこと好きすぎだろって」

「えぇっ!?」

「認めたら許すって言うんだよ。腹黒いぞ、あいつ」


唇を尖らせているけれど、口調でわかった。

有斗と菊池は、もう友達なんだろう。


頭上には絶え間なく花火が打ち上がり、夜に広がる闇を薙ぎ払っては消えていく。

その光景を見上げながら、わたしは思った。


楽しかった。

いい日だった。

高校最後の花火大会、このメンバーで来られて、本当によかった。




花火大会の数日後──夏休みが終わる直前に、有斗が多忙だった理由が発覚した。


「へぇ〜! 有斗くん、すごいわねぇ」


スマホを片手に呑気な口調で言うのは、わたしのお母さんだ。

その横で、わたしもネットニュースが表示されたスマホを凝視する。


『10月期ドラマ 追加キャスト発表』

『物語の鍵を握る謎の男子高校生には、モデルの神崎有斗。今作がドラマ初出演となる』

『人気バンド・TOY/BOXが手掛ける主題歌のティーザーが公開され、3年前リリースされたMVにも出演した神崎有斗が再度起用されることが明らかになった』


幾分涼しくなった夏の夜に、とんでもない情報が次々に暴力的に殴りかかってきた。

スマホを握る手のひらに、じわりと汗が滲む。

家が隣の幼なじみが、テレビの向こう側に行くらしい。