人混みの中、何となく各々の位置を確認していると、ふと視線を感じた。

そちらを見やると、谷瀬くんがじっとわたしを見ていた。


「谷瀬くん……?」

「あっ、すみません。めちゃくちゃガン見しちゃった」

「それはぜんぜん大丈夫だけど……どうかした?」


首を傾げて聞くと、谷瀬くんは少し恥ずかしそうに首の後ろをかく。


「いや、美月先輩、すげー浴衣似合うなーって思って」

「えっ!?」


思いがけない言葉に、つい大きな声が飛び出てしまう。

列の前に並んでいた女の子達がびっくりしたようにこちらを振り返ったので、慌てて口を押さえた。


「あはは、そんなびっくりします?」

「だって、そんなこと言ってもらえると思わないじゃん」

「そうですか? おれ、さっき駅で合流した時からずっと思ってましたけど」


にこっとはにかんで、谷瀬くんはさらっと言ってのけた。

瞬間、体中が熱を持ったのは夏の暑さのせいだけではないと思う。


「あ、ありがと……」


谷瀬くんはいつだってど直球だ。

わたしはそれを受け止めることに慣れていない。