「美月……」


有斗の瞳が真っ直ぐにわたしを映していた。

疲弊が浮かんでいた瞳に、少しだけ正気が戻ったように見える。

有斗は口を開きかけたかと思えば引き結び、噤んだかと思えば苦々しそうに開いた。


「充電、追加させて」


え──と聞き返す間もなく、肩を抱き寄せられた。

大きな温もりがすっぽりとわたしを包み込んで、ぎゅうっと力が込められる。

いつの間にやら逞しくなっていた胸板が顔のすぐ傍にあり、心地よい鼓動が耳に伝わってきた。


「ある……」

「ありがと、美月」


緊張の解けたような柔らかい声が頭上から降ってきた。

初めて聞くマシュマロのような声音に、思わずどきりと胸が鳴る。


「内容もキツい上に容赦なくダメ出しされまくって、結構凹んでたんだけどさ。なんとか踏ん張れそうだわ」

「ほんと?」

「あぁ。おまえのおかげ」


少し色濃く香る有斗の匂いが鼻先をくすぐって、こそばゆい。

有斗の腕の中で、鼓動が駆け足になっていくのを感じる。


「ははっ」

「え。なんで急に笑うの」

「いや? 俺、見る目あるなーって再認識しただけ」


安心しきったような声でそう言われ、わたしは身動きが取れない。

少しの間そうして、有斗が手を離すのを待っていた。