我ながら、どつぼに嵌まってるなと思った。

 彼女のことが好きだから、他の女性を適当な付き合いでかわすことができず、その結果彼女に憎悪が向いてしまう。彼女に憎悪を向けさせないために、彼女には近づけない。彼女を憎悪から守るために結婚しようと思ったのに、近づけなくて心の距離が縮まらない。距離が縮まらなければ結婚できず、彼女を守れないから、結局近づけない。完全にループしている。

「ああ‥‥それで結婚‥‥なんですね?」

「結婚すればそれで安心てわけじゃないだろうけど、俺が夫として周囲に安田さんへの愛を示し続ければ、かなりの防御になると思うんだ」

「‥‥でも、やっぱりいきなり結婚はちょっと腰が引けます。最近は離婚もそう珍しくはないですが、岩泉君の場合、そんなに簡単ではないですよね?」

「離婚なんて絶対にしない!」

「いやいや、そんなのわからないですよ?実際付き合ってみたら思ってたのと違うとか、あるあるじゃないですか」

 そんなこと絶対にない。俺の想いは最早執着の域に達している。どうすれば彼女を嫌いになれる?逆に聞きたいくらいだ。

「少なくとも私はもう少し岩泉君のことを知りたいし、私のことも知って欲しい。結婚するなら、この人となら大丈夫かもしれないって思えてからがいいんです」

 そんな‥‥それじゃ、いつまで経っても結婚にたどり着けないじゃないか。

「‥‥‥‥大丈夫だと思う判断の基準は?」

 こんなこと聞いたら彼女を困らせるだけなのに‥‥駄目だ、結婚の話は理性を保ちづらい。

「絶対がないのはわかってるつもりです。だから、そうですね‥‥相手の嫌だなって思うところが見つかったら、それを許せるかどうか‥‥とかですかね?」

「嫌なところが見つからない場合は!?」

 彼女は困ったような顔をして微笑み、俺の問いに答える。

「それは多分、見つける前に嫌なところを許しちゃってるんだと思いますよ?」

 ‥‥‥‥女神なのか?完全に後光が差していた。そして、俺は彼女のいう基準を既にクリアしている気がするので、ひとまず安心だろう。念のため深呼吸しておく。

 女神降臨で飛びかけたが、俺達にはまだ大きな問題が残っている。

 気軽に会えない状態で、どうやってお互いのことを知ればいいのか。彼女が俺と結婚してもいいと思えるまで、そんな状態が続くのだ。どう考えても道のりが長過ぎる。