それが活かせる職に就きたいと一流ホテルや旅館の厨房に就職したものの、どちらも想像以上に厳しくてメンタルがやられた。

そして23歳の春。この『穂乃香おむすび』に転職し、26歳になった今でも勤務している。


「陽菜ちゃん、そろそろお店開けようか」


すべてのおむすびを並べ終えたと同時に、店長――浜松さんにそう言われた。

浜松さんは現在37歳。
このお店を開くまでは、一流ホテルの料理人として働いていたらしい。

でも、自分のお店を開きたいという夢があり、10年前にこのお店を始めた。

地元民に馴染むまでかなりの時間を要したけれど、今はすっかり街の人気店で地方雑誌や広報誌にもよく掲載されている。


「はい。入り口、開けてきます」


返事をして、入り口へと向かう。

ブラインドの隙間から外を覗くと、ガラスドアの向こうにはもうすでに列ができていた。
見た感じでは、20人くらいだろうか。

今日も天気がよく、お花見客がほとんどなのであろう。


「お待たせしました。いらっしゃませ!」


ブラインドを上げて入り口を開けたと同時に、店内にお客さんが流れ込んでいく。

購入するおむすびを予め決めて来店しているのか、お目当てのおむずびを次々にカゴに入れるお客様。