「陽菜ちゃん、これ陳列お願い」
「はーい、すぐやります」


春の風が吹く、4月初旬。
私、佐竹陽菜(さたけひな)は、街で人気のおむすび屋さん『穂乃香おむすび』で勤めて3年になる。

おむすびの専門店である『穂乃香おむすび』は、天気がよく暖かい日は大忙し。

春は花見や、家族でピクニック。
夏は海、秋は紅葉を見に行くお客さん、冬はお鍋のチョイ足しに。と、1年を通してお店は賑わう。

定番の鮭おむすび、梅おむすび、昆布おむすび。
さらにはえび天おむすびや焼肉おむすびなど、定番から変わり(だね)まで数多くのおむすびが置いてある。

中でも、塩おむすびは当店人気No.1で、自慢のおむすびだ。

私も何度も口にしたことがある。
ほかほかのご飯にちょうどいい具合に塩が混ざっていて、人気なのが納得できる。

朝10時に開店し、閉店の19時までお客様は途切れることなく、おむすびはいつも完売だ。


「今日も忙しくなるかな」


そう呟きながら、出来立てほやほやのあたたかいおむすびを、種類別に陳列していく。


小さい頃から女手ひとつで育てられた私は、母の手伝いが好きだった。

特に料理をするのが好きで、高校は料理専門の学校へ通い、調理師免許を取得。