「そんなの、嘘」

違う、お父さんがそんなことをするはずがない。ありえない。


「加奈ちゃんが襲われた同時刻に、お母さんも襲われた。階段から転がり落ち、それから目を覚さないらしい。お父さんはそのことを加奈ちゃんが知ったら傷つくだろうから、俺たちに誘拐と見せかけるように頼んだんだ。お母さんを襲った犯人が捕まるか、お母さんが目を覚ますまで、加奈ちゃんを誘拐するように依頼されたんだ」


「……」


「犯人はもう捕まったのも同然だから、俺たちの誘拐はここで終わりだ」


目の前の、彼は、青波は、誘拐犯ではなかった。


その事実が、私の心のもやもやを晴らす。


青波が、"悪"ではなくて本当に良かった…。


どうしよう。
私のために優しい嘘をついた青波が、どうしようもなく愛おしいーー。