ここは東京だけど、かなり田舎だ。公園やスーパーがあるくらいで、高層ビルなどは無い。場所によっては長閑(のどか)な風景も見られる、とても過ごしやすい街だ。
 その中で一際目を引くのが、(そめ)(おか)病院だった。かなり大きな病院で、建物の手前に広い駐車場がある。

 あたしは、生まれつき心臓に病気があった。もう手術をして元気になったけれど、それまではずっとあの病院で、入退院を繰り返していた。
 幼い頃から看護師になるのが夢で、今は都会の方にある源明(げんめい)看護大学で勉強している。

「もっと勉強して、いつか看護師になれたら……ゼッタイあそこで働くんだ」

 お世話になった病院だから、今度は看護師として患者さんを()る側に立ちたい。

 最初は、あたしが循環器外科でお世話になったということもあり、循環器外科の看護師として働きたいと思っていた。だけど、今は精神科の看護師を目指している。

 あたしの恋人である彼が――精神を病んでしまったからだ。

 3年前に起こったあの事件以来、自力では何も出来ないほどの無力感、あるいは錯乱状態に陥り、ボロボロになっていた彼。
 今も染岡病院で治療を続けてはいるけれど、それでもこうして外を歩いたり、自然と笑顔を見せてくれるくらいには回復している。

 ようやく手に入れた幸せを噛みしめたあたしは、涙色に染まるこの(みち)を振り返った。