「樋口」

「何」

「恋のことでちょっと話」



 放課後の事。

 ホームルームが終わると、宗介が䄭風を呼んだ。

 宗介は自分の机に浅く腰掛けていた。
 䄭風が何と聞いても答えなかった。


 生徒たちは一人また一人と帰って行った。


 やがて、教室には、宗介と䄭風の他誰も居なくなった。


 宗介は、ガラガラと音を立てて、戸をぴっちりと閉めた。




「何?」

「恋に変なちょっかい出さないでくれない?」




 宗介が言った。

 䄭風は驚かない。



「ちょっかいって?……恋人じゃないんでしょ。」



 宗介が聞いた。



「お前誰に断ってキスした?」

「……新田さんの飼い主のつもり?」



 䄭風が尋ねた。


「だったら何?」


 宗介の低い声に、䄭風がくすりと笑った。


「……僕がなりたいのは飼い主じゃなくて恋人。新田さんキョトンとしてて可愛いから、僕は諦めないことにしたんだ。お前のじゃないよ、上野。」


 宗介が言う。


「恋はキスされて困ってた。樋口、迷惑なんだよ、お前。勘違い野郎。頭どうかしてんじゃねえの?」


 䄭風はシカトした。
 黙って宗介を見つめていたがやがて嘲る様にふ、と笑った。 


「キスされたのが悔しいの?」


 宗介がカタン、と鞄を置いた。



 丁度そのタイミングで、恋が教室の戸を開けた。


 忘れものを取りに来たのだ。


「あ、恋」


 宗介が睨むと、恋は驚いて髪を触った。

 䄭風は俯いて床の端を見た。


「こいつが悪いって言ったら止す」


 宗介が低い声で言った。


「何が?」


 恋が聞き返した。

 くわ、と変わった表情に、恋は怯えて打たれるのかと思って目を瞑った。



「何。どうしたの。」

「お前が良いなら良いけど、僕は嫌だからね。」

「だから、何が」

「それとこれとは別。お前がぼけっとしてるのが悪いんだよ。ほんとに。虫唾が走る。お前のじゃない、はこっちのセリフ。」

「は?」

「恋行くぞ。さっさと僕の家に帰ろうぜ。頭来る。」

「樋口くんどうしたの?」


 
 䄭風は黙って済まし顔をしている。


 これは面白いことになりそうだ。