次の日、前庭から恋が昇降口に入っていくと、同じ学年の女の子達が集って、職員室の前に固まって騒いでいた。
「あ、恋」
女の子の1人が、恋に気付いて手を振った。
「どうしたの?みんなして。」
「学校に転校生が来るんだって。」
「超超超超格好いい男の子が、職員室に来てたんだ。」
女の子の1人が言うと、もう1人の女の子が割り込んで言った。
「金髪みたいな髪の色で、王子様みたいだった。こっち見てたよね!。」
「ね!。かっこよかったよね。」
「上野くんと張るんじゃないかな、あのかっこよさは。」
「恋も居ればよかったのに。見せたくなるくらい綺麗な子だったよ。」
女の子の1人が言った。
「うちの学年に来る転校生らしいんだけど、どのクラスだろうね。」
「うちのクラスだったらどうしよう!」
「ねえ!。ほんと。一目惚れしちゃったらどうしてくれるの」
「ほんとだよ!きっれーな子。」
恋は、まだ熱の冷めない女の子達から別れて、教室へ向かった。
キンコーンとチャイムが鳴って、先生が教室に入って来る。
小山田という担任の先生は、いつもと同じように、教卓から号令をかけて挨拶した。
「えー」
小山田先生が咳払いした。
「今日は皆さんにお知らせがあります。」
数人の女の子達が嬉しそうに目配せし合う。
恋が思った通りだった。
「大変喜ばしい事に、我がクラスに、今日から新しい仲間が増える事になりました。樋口くんです。」
先生が呼ぶと、ガラガラと戸を開けて、転校生が教室へ入って来た。
その姿を見て、恋は窓際の席で息を呑んだ。
教室を歩いて来た転校生は、公園で出会った、あの男の子だった。
「樋口䄭風です。ミカゼと読みます。」
䄭風はリラックスした表情で、黒板の前で挨拶した。
䄭風は教室を見渡して、自分を凝視している、あやかし狐の少女に目を留めた。
気づいた顔をして首を傾げた後、䄭風は、恋に向かってにこっと微笑んだ。
「特技は走ること。趣味は写真を撮ることです。これからよろしくお願いします」
改めて見ると䄭風はとてもきれいな顔をしていた。
宗介はすっきりと涼しく整っているが、䄭風は、それとはまた趣が違って、美しい人形のような顔立ちをしている。
「樋口くんは、休みの日は何してますか?」
「大体の場合は写真を撮ってます」
質問タイムになり、䄭風は、新しいクラスメートからの質問に答えていた。
先生の指示で、転校生の䄭風の席は恋の真ん前に決まってしまった。
恋は、困ったなと思いながら、䄭風が席に付くのを眺めていた。