「先生なら今はいないわよ?」

 平静を装ってマサトに声をかけた。ここはすぐに退散するのが吉ってもんだ。

「ハナコ、なんでお前がここに……!」
「保健室に来る理由なんてひとつに決まっているでしょう?」

 冷たく言い放って、そのまま出て行こうとした。
 ってか、この手はなんだ? 乱暴に二の腕掴まれて、ちょっと痛いんですけど。

「いい機会だ、お前に言っときたいことがある」
「なによ?」

 マサト・コーガは脳筋キャラだ。運動は出来るけど、勉強はてんでダメってタイプ。
 能天気で大食いで、攻略対象の中でもワンコキャラな位置づけとなっている。
 学園には山田の護衛が目的で一緒に入学してきてるんだけど。

 実はマサトとは子供のころから面識がある。
 親同士がわりと仲が良くて、お茶会に誘ったりして昔はよく顔を合わせてたんだ。

 言っても大きくなってからは疎遠の状態が続いていた。
 それにマサトは子爵家の末っ子で、わたしは言わずと知れた公爵令嬢。
 身分差もあるから学園では顔を合わせても、お互い干渉せず過ごしてたんだけど。

「お前、どうやって王子に取り入った?」
「は? 知らないわそんなこと。それにあなたには関係ないことでしょう?」