ハッとして立ち止まった。

 生徒たちの波の向こうに山田の瓶底眼鏡が見えた。
 しかもその腕にはユイナがぶら下がってるし。

「ハナコ様、どうかなさいましたか?」
「いいえ、なんでもないわ」

 急に引き返すのもマズいかな。
 今は移動教室に向かう途中だから、取り巻き令嬢たちに変に思われてしまうかも。

 それに公爵令嬢ハナコ・モッリとして、逃げ隠れするなんてちょっとプライドが許さない。

 未希からは山田をはじめ、生徒会のメンバーには近づくなって言われてるんだけどさ。

「ごきげんよう、シュン様」
「おおハナコ! 体調はもう問題ないか?」
「ええ、おかげ様ですっかり良くなりましたわ」

 美しい所作で山田に礼を取った。
 ハナコの記憶は残ってるから、こういったことはすっと体が動いてくれるんだよね。

「そうか、それはよろこばしいことだ。週末にハナコに会いに行けなくなるのは少々残念だが……」
「まぁ、シュン様ったらご冗談を」

 おほほほほ、とかぶせ気味に山田のセリフをさえぎった。
 毎週見舞いに来てたこと、勝手にみんなにバラしてんじゃねぇよ。

「シュン王子ぃ。そろそろ行かないとぉ次の授業に遅れちゃいますよぉ?」